わたしは旧帝国大学を出ている

恋人と一緒に暮らすことにしたので両親に報告した。

私の両親はもともと放任主義で、自分達が何を言おうと娘は自分が決めたことを覆さないだろうという諦念も持っているので絶対に反対されないという確信はあったし、同棲に親の許しを得るような歳でもないので事後報告でもよかろうと思っていたが、諸先輩方から事前に言えと言われたので一応言いに行った。

案の定よかったねおめでとうで終わったのだが、母が「(私)が(私の出身大学名)卒なのは嫌がられないだろうか」というようなことを言い、私は「彼氏は嫌がってるよ!」と即答した。

私は下位旧帝国大学を出ている。

恋人は九州の田舎の生まれである。私はそれに比べれば少し都会の生まれである。私は女子高を出て旧帝国大を出て堅い職場に総合職で就職し、高校生の頃からずっと「結婚はできないからしないし当然子供も産まないからね」と繰り返し両親に言っていた。両親は「別れてもいいから結婚は一度はしたほうがいいと思うけど」という前置きを付けたり付けなかったりしつつ毎度「別にいいよ」と言い、私は「とか言っておきながら30歳くらいになったら「孫の顔が見たい」って言い出すとか絶対やめて」と言っていた。果たして両親はそのようなことは一言も言わなかった。そもそも私の選択に何か意見されたことがない。

母は彼女の親の反対を押し切って高校以降の進路選択をして、私が小学校の頃からその内容でフルタイムの仕事をしていた。父は「女の子なんだから」と言ったことがあるが母はない(と思う)(父も生まれ育った地域や年齢を考えるとかなり頑張っていた方だと思うけど)。

私も、数ある「恋人の両親や親族が嫌がる可能性の高い私の要素」の筆頭に「旧帝国大学を出ている(しかも恋人の出身大学より偏差値が上)」を数えていたくせに、母が、自分自身がそう思っているわけではなくても「自分の息子より学歴の高い嫁を嫌がる人がいる」と思っていることをはっきり口にしたこと、しかもそこに非難のトーンがなかったこと(恋人の親や親族がそのような発想をするかもしれないのだから気を遣ったのだろう、もちろん)が思いの外ショックだった。

さん付けで呼ばなくていいけどさあ

この文章がずっと下書きに残っていた。多分半年以上。

 

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私の人格の善いところ(あるとすれば)は概ね私によくしてくれた誰かの善いところの模倣でできていて、私は私のことを一番信用していないので自分の生来の性質は好きになれないけど誰かに由来するものならかろうじて善いものだと多少は思えるような気がする。

そうやって出来上がった自分の特定のいくつかの教義を私は変えるつもりは一切なく、ましてや他人がこれを変えさせようとするなら絶対に従わないと思っていた。

のですが、そのうちのいくらかについて、ある時は多少、またある時はかなり抵抗したものの最終的には手放したこと、そしてそれが男のためであること、希望を汲んだとはいえ強制されたわけでもないのに自分からそのようにしたこと、について、ここに来て人生がここまで変わることがあるんだな〜〜という単純な驚きが1割、あとの9割は自分に失望している。

人生変わったって言っても何も起こってません。ただ、今までずっと「いや、他人を所有することはできないし、私は私のものでしかないんであなたのものではないし他の誰のものでもないです」って毎回反論してたのをやめて「はい」って言っただけの話

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「人は自分以外の人間を所有することはできない(不可能でもあり禁止でもある)」というのは私の教義の中ではかなり大きい。大きかった。保護者と被保護者の間であろうとそれは「所有」であるべきではないし、いわんや成人した者同士をやである。フィクションならともかく、現実でのロマンチックな文脈で他人(「他人」という語の用法も他人と争ったことがある。私は自分以外の全員、親だろうが恋人だろうが、とにかく自分でない者のすべてを他人と呼ぶ)に所有格を付けることは決して許せない行いだった。

そういうわけで数か月間私の名に私以外の所有格が前置される度にしつこく「違います」と言っていたが、とうとう折れた時負けたと思った。私が(固有名詞)に負けたのではない。私の倫理観が私の性癖、性欲と言った方が近いかもしれないけど、に負けたと思った。

それからだいぶ経って、もういちいち負けたとか思わないが、未だに私は誰の名の前にも「私の」と付けたいとは思わない。

無題

前の係長と支社の課長(当時)がものすごくそりが合わなくて、当時の私は「係長は理屈の人で課長は気持ちの人だから」と解釈していた。係長が理屈の人であることは間違いなかった。係長はいつも正しかった。もし間違っていることがあるとすれば「正しすぎる」ことのみだった。

支社の課長とは直接話すことはなかったから、「気持ちの人」という評価が正しいか確認する機会はずっとなかったんだけどこの間たまたま飲みの席で一緒になった。我々の仕事を仮に警察とすると「(犯罪者を見て)あんな悪い奴許せないという気持ちがまず大事」と言っていてまさに気持ちの人だった。なんか周りが感心しているのを見て全く共感できなかった。我々の仕事を警察とすると、私は自分が権力の側であることを自覚して力を濫用しないようにする、とか、足元を掬われないようにするためにも感情が先立つ時ほど法に基づいて仕事することに気を配る、とかを大事にしていて、多分「悪い奴を捕まえて懲らしめてやらなければ」という思想の人からすれば甘いし相手に舐められるような人間でしかなかった。そもそも絶対舐められないようにするぞ!という気持ちがない時点でこういう人からするとだめだろう。でも「こいつ、「絶対舐められないようにするぞ!」って思ってるな」って思われた時に最も舐められるし私はその「絶対舐められないようにするぞ!」が絶対隠せないから違うやり方で行った方がましなんだけどな。

とりあえず、1年越しくらいに答え合わせができてよかったな〜〜と思いました。

今言ったこと全部嘘だから

HPVのワクチンを週末に打ち、その日の夜に交際相手に会ってその旨を言ったらどっちの腕(というか肩)かと言う。左だと言うと、いつも寝る並びだと私が左腕を下にして寝ることになるので今夜は逆の並びで寝ようと言うので「いや大丈夫ですが……」と言ったけど結局逆に寝かされた。優しいね☺️

で翌朝すごく唐突に「ずっとこうして一緒にいたい」と言うので、(A)「あなたが私のことを嫌になるまではいますよ」(B)「なんで急にそんなこと言うんですか?」の二択で明らかに間違えてる方の選択肢を選んだら「なんでだろうね」と言っていた。

焼け野が原にしてほしいのに

付き合っている男、「めんどくさい彼女」の概念を具現化したようなところがあって、

・「俺のことどれくらい好き?」って訊いてくる

・「俺より仕事の方が大事なんでしょ」と言ってくる

などがある(後者は「私と仕事どっちが大事なの」じゃん、と思って笑いを堪えるのが大変だった)んですが、割とよく言ってくるのが「俺と会えなくて寂しかった?」。

「いえ別に……」(実際別に平気だったんだけどこれはないなと思ってあとで多少反省した)とか「少し」とか「はい」とか都度言ってるんだけど毎回「あなたはどうなんですか?」って訊いたほうがいいのか迷って訊かない。別に寂しいと思ってほしいと思ってないし……。

結構凄いこと言ってくるので(「俺がいなくて生きていけると思ってるの?」って言ってきた時ふざけてるのかと思ったらそういうわけでもなさそうだったのでびっくりした)すごい自信だなーと思う。その割に次の瞬間私が相手を全く好きではないが仕方なく渋々付き合っているという前提で物を言ってきたりするので一体どういう情緒なんだ?この人なんでわざわざ私を選んで付き合おうと思ったんだろう→まあ他人の心の裡など考えたところでわかるわけもなく→考えてもしょうがないので考えるのをやめよう→最初に戻るを毎日繰り返している私がそのようなことを言う権利は微塵もないんですが。

最初の話に戻ると、「どのくらい好き?」に対しては「いつか別れても何かあったら助けてあげたいと思うくらい」も「あなたが死体を持ってきたら黙って埋めてあげるくらい」も(いずれも本心だけど)気に入らないかもな〜〜と思い、「考えるんでちょっと待ってください」と言って考え始めて1分経たないうちに横見たら寝ていました。その後別れ際に「さっきの質問ですけど」って切り出したら「何の話?」って言われたので「何でもないです」って答えてそのまま帰った。

全然分かり合えない人

わたしたちは無痛恋愛がしたい 〜鍵垢女子と星屑男子とフェミおじさん〜 - 瀧波ユカリ / 第11話 10年の月日で得たもの、失ったもの | &Sofa

かなり分かる。彼氏ができたのに恋愛のコンテンツへのわかりが全く訪れないな〜と思っていたがここで来るとはね。

でもみなみさんの言うことはかなり分かるのだが相手に分かってほしいみたいな気持ち、なし……。

そもそも付き合う以前から、というか知り合った当初からずっと「価値観や趣味が一切合わない人間」だと思ってるので「分かってほしい」という期待が基本的にないんですよね。「どうせ分かってくれないだろう」という拗ねた気持ちではあまりなく、「あなたとする話ではないよね」という感じのような気がする。自己開示しないわけでもない(私は好意的に思っている他人に対して急に不必要に自己開示するきらいがあるので、ある部分においてはむしろ過剰に開示していると言える)が、そこに至る過程を説明したところで分かんないだろうし、それは分かる人とするね!と思っている、ような気がする。

たとえば「死にたいわけではないが生まれてこない方がよかったなと思っているし特に長生きしたくない」とか「私の遺伝子を持ち私に育てられる人間が可哀想なので子供を産む気はない」などの、多分かなり反社会的な考えは割と言ってるんだけど、で当然反論されるんだけどそこで「詳しく説明しても別にいいけど、説明しても分からないよね」と思って特にそれ以上説明しない。

ここまで書いてなんとなく思ったんですけど、『「知ってほしい」という欲求は強く持っているが「理解してほしい」とは大して思っていない』というのが正確な気がしてきた。そして私はこの人に対して「私を全く理解していないが、私をよく知っている」と思ってたんだった。そうだった。なるほど。私にとって理想的な交際相手というわけですね。これからも、私を微塵も理解しないまま私に詳しくなってくれ……

せめて今のうちに

交際相手が誕生日だったので、考えた末よくわからなくなって地元(と言っても我々の職場及び各人の住居と同じ市内)のフレンチに連れて行った。他人の誕生日なのに自分の趣味で店を選択するのはどうなのかと思ったけどそこが私の知っているいちばん「いいお店」で、店構えもメニューも庶民的な雰囲気の店だけど夜はそれなりの値段だったはずだから、自分が奢れることが確定していないと来にくい。それに、変な話だけどもしこの後思いの外すぐ別れたりしたら「あの時連れて行けばよかった」って後悔するかもしれないな(ひどい別れ方をしたら逆に「あの時連れて行かなくてよかった」って思うかもしれませんが)、と思ったのでそうすることにした。

相変わらず何を食べても美味しくて嬉しかったし安心したが、量が少し少なくなっていた。そのぶんいくらか安くなっているように思ったけど、値上げしていいからあの量を維持してほしかったなとわがままなことを思ってしまった。その日の数日前、結構量があるからお昼食べ過ぎないようにしてくださいよ、と相手に事前に言うか迷って、口コミサイトのレビューに「量が減った」とあるのを見てやめておいてよかったと思った。

帰りにいつも通らない都会を通るのでそこで二軒目に行くかとなったけど二人ともお腹空いてなかったのでやめた。我々は二人とも飲みの誘いは断らない人間だけど(だから業務上の関わりがほぼ無いのに仲良くなったのだし)、この人は手持ちのお店のストックがめちゃくちゃあって、私はあまりない。というか、基本、「女性の友達と二人で行く店」しかない。だから男性と二人の時にどこに行けばいいか分からずに今回もわざわざ私の地元に連れて行く羽目になっている。

 

もしかしたらすぐ別れるかもしれないしそうなった時に後悔しないように、と思ったのはこの間この人が私のことを「少なくとも今は俺のでしょ」と言ったからだった。私は愛より自由と倫理がよっぽど重要だと思っているしさしてロマンチックな人間ではないので、私に所有格を付けられると毎回絶対に「違います」と言うしその理由が「私は私のものなので、私の他の誰も私を所有することはできないからであって、別にあなたではない他の男性に所有されているとかいう意味ではない」ことを飽きずに説明するんだけど多分いまいち通じておらず、その日も「違います」と言ったら返ってきたのが「少なくとも今は」だった。そう来たか〜と思って、そしてやっぱり全く通じてないことは置いておいて、「少なくとも今は」なんだよな、じゃあ「少なくとも今」が存外早く終わる可能性も念頭に置いたほうがいいな、と思った結果が「いつか連れて行きたいなと思っていた店に連れて行く」だった。私の中では整合取れてるけどなんか変な帰結だ。

 

そもそも彼氏が欲しいともできるとも思ってもなかったので、まあいつかは別れるだろうし別れたところで1が0に戻るだけの話だし別に……と思ってたけど、いつか別れてもできることならその後もそれなりに仲良くして何かあったら助けたいという漠然とした願望について冷静に考えてみると現実にはそんなの無理だろと気付いてから、なんとなく、別れたくないな〜〜……と思っている。