「やれる人はいいじゃない。私はできない」

4月から出向になり、今までとは毛色が違うかなり特殊なところで大変苦労しているのですがそれはまあよくて、今最大の問題の発端はお世話になった先輩が先々月の送別会の席で私に向かって何かのついでみたいに「(私)さんのことが気になってる男から連絡があると思うから」と言ったことだった。

なあ、これまで散々「私を会員にするようなクラブには入りたくない」(今知りましたが「アニー・ホール」に出てくるセリフなんですねこれ)って、100パターンくらい言い方を変えて説明したよな。私と寝るくらいなら地面に穴を掘ってそこに突っ込んだほうがいくらか楽しいとまで言ったよな。忘れた訳じゃないよな。

と、思ったのでだいぶしぶとく抵抗し、その時しつこく「誰ですか?◯◯さんですか?」と聞いた、そして誰なのかは当然教えてもらえなかった(教えてくれるような人ではないと知っていたが、アルコールを摂取していたしあまりに動揺したので聞いてしまった)その◯◯さんから連絡が来たのが少し前だった。やっぱりお前じゃないかバーカと思った。

連絡が来る少し前に先輩と御飯をたべた時、意味がないと分かっていたのでもう「誰ですか」とは聞かなかったんだけど、やたらに◯◯さんを褒めるのでやっぱりそうなんじゃねえかと思った。やっぱりそうだった。しばらくしてから先輩含めて飲みに行った時にやっぱりあいつなんじゃねえかよあの時やたら褒めるからそうだろうと思ったよと言っておいた。

先輩は◯◯さんに心酔しており本当にいいやつだからと言っていて、まあそれはそうだろう先輩が気に入るようなタイプの人間であることは一目見て分かるなと思ったのでそう言った。散々言い含めておいたのに忘れたようだったのでもう一回私で機能する男は性癖か視覚か脳か精神がおかしいので病院に行った方がいい、あと私は別に私自身がどうなろうとどうでもいいけどめんどうなのが嫌なので行為に伴うあらゆる準備がめんどうだから嫌だと言った。◯◯はピュアだからそういうことは本人には絶対言うなと言われた。処女なんだから私の方がピュアだろうがと思ったけど黙っていた。

翌週先輩に飲み会のお礼のメールを送り、ついでにもっとまともな女を紹介してやれよ、そんなに気に入ってる素晴らしい奴なら、と半分は自分がこれから逃げたいから、半分は本心で付け加えておいた。怒るかもしれないなと思ったけど半分は本当に心からそう思っていて相手があんまり気の毒だったから1時間以上迷った挙句書いた。私は先輩のことを本当に信用していて素晴らしい人間だと思っていたしかなり好きだったので、これで怒られたり嫌われたり縁遠くなったらと思うと相当なためらいがあったけど、書くべきことだと思った。

そうしたら、あなたが素晴らしい女性だからこそ素晴らしい◯◯君に紹介するんですよ、ときた。本当お前そういうとこだよ。電車の中で苦虫を噛み潰したような顔になったのを一生忘れないと思う。私は先輩のことを相当に高い人間性を持っている人だと思っていて、先輩がその高い人間性を感じさせる言動をする度に(人間性!!)と心の中で言っていたがこの時も脳内で(人間性!!)と吐き捨てた。

大体私が盲目的に信用している人間である先輩のお墨付きであるところの(つまり人間性についてはある程度担保されていると言って良い)◯◯さんが一体なんだって私に興味を持つのかが全く意味がわからない。私だってある程度ブスじゃないと興奮しないという派閥があるのは知っている。その意味するところはよく分かる。でもブスさにも限度があるし、人間性に瑕疵のあるブスをわざわざ選択しなくていいと思う。

そもそも◯◯さんは私が異動するのと入れ替わりでそこに来た人なので、一体何を見て私に何らかの関心を持ったのかがさっぱりわからない。先輩と同じくカーストの頂点に立つ人間であることは一見して分かるのでますます意味不明度合いが増していく。

勘弁してくれ。行為や言動や物なら好きなだけ持っていっていい。金もある程度ならかまわない。その奇特さに免じて私が老後ぎりぎり困らないくらい持っていけばいい。頼むから気持ちを要求しないでくれ。何もやるものがない。ブスのくせにとか処女のくせにとか言われても、何もないところから仏像を取り出すことはできない。そしてそれを真人間に説明する能力を私は持っていない。

私は私の宗教である私の最初の上司から誠実たれという命をうけているので、もし説明を要求されたら本当に私の思っているところを説明する(私はそれが誠実だと思うから)つもりではあるけど、絶対に通じないと思う。適当な嘘をでっち上げた方がいいんじゃないかとは前から思っていた。初恋の人が死んでそれ以降操を立ててるとか、子供を産めない体だとか男の人からひどいことをされたことがあるとか。でもそれは本当にそういう体験をした人に対しておそろしく失礼だから嫌だ。

ということで困っている。