年賀状に和歌を書き添えるような女の子になりたい人生だった

 電車に乗っていると聴き覚えのある女性の声がした。

 そちらを見ても知った顔は無く、他人の空似だった。それはいいとして、私は誰を思い出したのかが分からなかった。

 声を聴いた瞬間に、あ、あの「すごい美人」だ、とは思ったのだがそれ以上のことが中々出て来ない。顔が浮かんですらいないのだ。「すごい美人」であるという事実だけが真っ先に出て来て、それだけ。いや、声と喋り方もか。

 声と口調はちゃんと思い出せたので、頭の中でその声に適当な文章を喋らせてみたりした。うんうんこういう話し方だ、とは思う。すごい美人だった、とは思う。でもそれ以上先に行かない。

 とりあえず、高校の同級生ではないかという仮説を立ててみた。私は女子高に通っていたから、かつて所属した人間関係の中で一番女性の割合が高いのは高校だった。そうはいっても「すごい美人」である。そう何人もはいまい。

 片手で数えられる程度しかいなかった「すごい美人」達を一人一人照合してみたが、どの人も違う。うーむこのまま迷宮入りでは…と思いかけた時、唐突に思い出した。

 大学のサークルのOGの先輩だった。全然違う。

 とりあえず、その先輩は私の中で「大学関係の人」「サークル関係の人」「先輩」であるよりも先にとにかく「すごい美人」である、ということだけは分かった。

 

 この大学に入って良かったなあと思ったことのうち一つは、初めてこの「すごい美人」の先輩にお会いした席で、いきなり「けいおん!って知ってる?」と訊かれたり、ラブプラスの話をされているのを拝見したりしたことです。