鬱病の話

  新しくこの部署に来た人が上司に向かって「あなたが今年誰も潰さなかった(病休者等を排出しなかったの意)はすごいですね」というようなことを言っていたけど、まあこの人いまより下の役職だったときに少なくともひとり潰しているからなあと思って聞いていた。それは私が入社するより前の話で、なぜ知っているかというと潰れた本人から聞いたからだ。そしてその潰れた本人は私がとてもとてもお世話になっている好きな先輩(学校でもないのに二十も歳の離れた人にこの言葉を使うのは違和感があるが、上司ではないし年齢も経験年数も段違いである以上同僚とも言いにくいので便宜的にこう言う)だった。
  この上司が、少なくともいまの私や先の人にとってはとてもいい上司であることは疑いようがない。事前の申請より長く残業しておきながら面倒だからとその報告をしないでいると珍しく真剣に注意されたことがあったのだが、同じ役職でそんなことをする人はこの部には他にいない。それでいながら昔は直属の部下(つまり、私が非常に世話になっている先輩)が休みの申請を出した上で出勤していても放っておいたのも本当らしい。
  じゃあこの上司と先輩は現在険悪であるかというとそうではなく、お互い気安い口を利いている。そして上司は先輩のいないところで私に向かって、ただのつきあいの長い気心の知れた部下のことみたいに「(先輩)さんも悪い人じゃないんだけどね」などと言う。私に対する先輩の言い方がきついので。フォローのつもりで。
  私は先輩をいやになったり嫌いになったりしたことなんか一秒もないのでただでさえそういう言い方をされると神経が逆撫でされるのだけど、とりわけこの上司がそういうことを言うとあなたがそれを言うのかよと思っていらいらしてしまう。この上司は大好きだし、たくさん迷惑をかけたし、お世話になっている。でもそれとこれとは全く別の問題で、この上司を好きな以上に私は先輩が好きだ。憎まれ口をたたきながら一から十まで世話を焼いてくれる人であるのを毎日毎日世話を焼いて貰った人間である私がわからないわけないだろうがと思う。顔を合わせるたびにきつい冗談を言われているにも関わらず私が先輩を好きなのを茶化す権利はあなたにはないだろうがと思う。何したのか知ってるんだぞこっちは、ひとひとり潰しておきながら、と思う。