ジュ・ヌ・コンプラン・パ

 読書感想文を書くなら、真っ先に堀江敏幸『もののはずみ』の感想を書かなければならなかったのでは…と気付いたが後の祭りである。

 

 もうキャンペーン?の期間は過ぎたのだから、制約に縛られる事はないよね。『もののはずみ』というより、堀江敏幸について。

 

 私が初めて読んだ堀江敏幸の小説は『河岸忘日抄』だった。

 ご多分に漏れず、私の通っている中学校にも「朝読書」の時間というのが設けられていた。この小説は殆どその時間を使って読んでいたと思う。私の記憶力の悪さもあるのだろうが、それほど大きな事件が起こる訳でもなく淡々と進む話だった覚えがある。「私」の素性に関しては何かあったような気もするけど。とにかく、ハラハラドキドキや、どんでん返しや、胸のときめきなどといったものとは無縁の小説だった。

 それでもすごく面白かった。作中に登場する本『卵と私』を図書館で偶然発見した時は嬉しかった。これもかなり面白かった記憶がある。あとは「枕木さん」という登場人物が印象的だった。この方は他の作品にも登場していたはず…主人公になっていたような気もするけど、記憶に自身がないので「気もする」でやめておきます。

 作中に出てくる本まで読む程熱中し、いつも「ああもうこれだけしか残っていない」と思いながら名残惜しく読み、読み終えてからも「あの本は面白かった、また読みたい」とずっと思っていたにも関わらず、実際に再読してみると肩すかしを食らった。何か、思った程ではないような…淡々としてるし…と。

 しかしその再読後しばらく経つとまた読みたくなってくるのである。「読んでいる最中はああ思っていたけれど、やっぱり面白いし好きだ!」という感情がじわじわ湧き上がってくる。私の消化が遅いのか、それとも堀江敏幸の文章が後から美味くなってくる質のものなのか。多分私の消化が遅いんだろうな…。

 

 初めて読んだ「小説」が『河岸忘日抄』だとは言ったが、それが初めて読んだ「著作」でもあったわけではない。初めて読んだ堀江敏幸の著作は『回送電車』です。

 これも面白かったのだが、私の頭の残念さ具合を露呈するようで大変恥ずかしいのだけれども正直に申し上げて内容を全く覚えていない。一緒に佐藤正午『ありのすさび』を借りた事は覚えているのに(でもこの本も「すごく面白かった」こと以外は殆ど覚えていない)。でもとにかく面白かった。そして、随筆は砕いて書いて下さっているからか、小説のように消化が遅れたりはしない。この方の随筆は、上品で知的で、それでいてどこかとぼけたような所があって好きです。小説も割とそんな感じだけれど。

 ただ、小説になるとちょっとこちらが煙に巻かれるというか、置いてけぼりにされるような感覚になる時がある。散歩しながら談笑していたら、気が付けば知らない所に連れて行かれていて、相手はどこかに行ってしまった、というような感じで、読み終えた後に途方に暮れたことが何度かある。そして時には、こちらだけでなく登場人物自身も「一体なんだって俺はこんなところに」と思っていたりする。多分そういう部分を受け止めるのに時間がかかるから、消化が遅れたりするんだろうな。

 好きなんですけどあまり褒めているようには見えない文章ですね。堀江さんすみません。

 

 『なずな』はちょっと話題になっていたけれど、話題のものに手を出したくないという私の痛い信条のために手に入れておらず、「シル、ク、ロード、です」のアレも読んでません。でも、正直これらより『正弦曲線』を読みたい。「正弦曲線」という言葉を美しい、と感じるセンスが美しい。