貴方の恋人になりたいわけでは特にない

 私がここに「友人」と書くとき、その8割は同じ人のことを指している。

 彼女は私が欲しくて手に入れられなかったものを大体持っていて、私の来たかったような所から来て、私の行きたかった所へ行く。と思う。と書くと彼女に対しては嫉妬の感情しか無いだろうと思われるでしょうしものすごく嫉妬しているのは確かなんですが、でも、この人すごく面白いしいい人だし人間性も完璧で、私は大好きです。悲しい事に。

 気があうんだ、と言いたくなるけど実際には気が合う訳では全くないと思う。彼女が誰に対しても「わあ、この人って私と気が合う!」と思わせる能力があるだけの話で、彼女は私に対して気が合うと思った事はないんじゃないかな。そういうコミュニケーション能力とサービス精神を持ち合わせている人なんです。それを褒めると彼女は大概、「そうした方が楽だから」とか「その方が面倒くさくないから」とか言うけど、私はそういう風に考えることすら放棄しているんです。人間関係で面倒が起ころうが知ったことではないし、面倒が起こっているときもそれほど息苦しくなったりしない。私は私の好きな限られた人と上手くいきさえすれば後は大体どうでもいいんです。

 彼女の発言の中でも結構ショックだったのは、二度程聞いた「愛想を振りまくのに疲れた」というような言葉でした。じゃあやめればいいのにと私は思う。嫌味じゃなくて、彼女にそんなことで疲れて欲しくない。彼女が疲れるくらいなら、そんなことやめてみんながぎすぎすしたほうが百倍マシです。でも彼女は決してそうは考えない。彼女にとってはそれをやめて問題が起こるのも同じくらい、いやもっと疲れることなんです。

 彼女は辛いでしょうが、私はそういう、人間関係における面倒を苦痛だと感じられるような健全な心根が羨ましい。最近、私はただ単にコミュ障というだけでなく自分の気に入った限られた人以外のことが本当にどうでもいい(無論自分のことも)ということに気付いてしまって、自分の社会不適合さに改めて驚き呆れているので尚更です。

 

 出会ってから一年半程、私は羨ましさを隠す気がありませんでした。もちろん嫉妬の感情を露にするのがよろしくないという程度の認識は私のような馬鹿の頭にもありましたが、羨ましいというのはポジティブな感情だからいいだろうと思っていた。

 それが変わったのはある講義を受けたからだった。ある時、講師の方が「私は人に羨ましがられるのが嫌いでならない」という話をし始めた。「私は何もあなたに与えられるべきものを奪ったわけではない」というようなことを言った。私は衝撃を受け、そしてその時隣に座っていた彼女に対して心の中で謝った。別にあなたが私から何かを奪ったなんて思ったことはない、でもものすごく羨ましがってごめん、と思った。私は人から羨ましがられる事なんてあまり無かったから、それがそんなに不快だと分からなかったのだ。だから私はお前そんなにお前自身が嫌なら私と人生替わってくれなどと言ったりしていた。私にとっては羨ましいことばかりなのに彼女が自分を卑下するのが嫌で嫌で仕方が無く例え謙遜であろうと腹が立つ(というのは多少言い過ぎだ)というか、正直許せないと少しだけ思っていた。それはやっぱり、恵まれた人が存在するのは私に与えられる筈だったものがその人の所に行っているからだと心のどこかでは思っていたからだろうか。

 まあとにかく、それ以後私は過度に彼女を羨ましがるのをやめ…ることはできないから、せめて彼女の前ではあまり出さないようにしようと思った。できているかどうかは分かりません。むしろ私の浅ましい妬みがむき出しになるような結果になっている気がします。ごめん。

 私が異常に彼女に執着するのは多分こういう経緯なんだろうな〜と思っていたけど、理由はともかくこういうの絶対よくないよなあ彼女も気分良くない(どころの話ではないだろう、多分)し私の精神状態も絶対不健康だよなあと悩んでいました。しかし改めて考えてみると、私が友人の一人にやたら入れあげるのは前例の無いことでは無かった。じゃあまあ大丈夫かな、過去の例においてそういうのを表に出さないようにしようという努力は一定の成果をもたらしてきたし、物理的な距離が出来れば何とも思わなくなるし、と安堵しかけたんですがもっとよく考えてみると多分私は甘い。

 今まで私は、誰かに奉仕したいが為に、自分がその人の家族だったらよかったとか異性だったらよかったとか最悪異性じゃなくても恋愛感情を持てればよかったとか考えた事なんて無かった。というか普通は思わないでしょうこんな事。まあとにかく、今私はよく私が彼女の親ならもっと無尽蔵に支援するのにとか、男だったら絶対にこの気持ちを恋愛感情だと積極的に勘違いして告白するのにとか思っています。危ない。確実にこれは危ない。

 

本当は私が崇拝している大好きな男性についても書くつもりだったんだけどなあ。それも踏まえてタイトル付けたんだけどなあ。まあいいや。まだ気力が有ったら後で追加しよう。